ここ最近の屁の勢いが尋常じゃねぇ

興味の赴くままに生きた記録をつづる

バレンタインデーの思い出

私は人生で1度だけ、片思いの男子にバレンタインチョコを渡したことがある。

高校2年生の時だった。

 

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作ったのは生チョコトリュフ。練習用と本番用で2度製作した。

10センチ四方の小箱にたどたどしくリボンを巻いた、いかにも本命感漂う代物だった。

 

バレンタイン当日、片思いの相手であるN川くんを高校近くの公園へ呼び出して渡した。すぐに帰るのがいやで、公園のトイレ前のベンチに座って30分くらい話した。何もトイレ前じゃなくても…と今となっては思う。ただ当時はとてつもなく幸せで、「私は今、青春している」と確かに感じていた。

 

「好きです」とは口にはしなかったものの、あんな本命っぽいチョコを渡したし、告白したも同然と思っていた。私はN川くんからどんなお返しがくるかと期待していた。

 

そしてホワイトデー。3限目の後、N川くんが義理チョコをくれたクラスの女子たちにカプリコを配り始めた。お返しがカプリコかよ…。まぁ義理チョコへのお返しだから、妥当ラインか。私へのお返しもカプリコだったらどうしよう。…いや、でもほしい!私だってカプリコほしい!見て見ぬふりをしながら、でも横目ではしっかりとN川くんの動向を追っていた。

 

N川くんがカプリコを配り終え、自分の席に着いた。

 

…え?私の分は…?

 

横目では飽き足らず、今度はしっかりとN川くんを視界にとらえた。彼は黙々と小テストの準備をしていた。

 

…まさか、忘れてる…?

 

しかしスーパーポジティブな私は、「カプリコはあくまで義理チョコへのお返し。本命チョコにはあらためてとっておきのお返しがあるに違いない」と思い直した。

 

放課後。私はN川くんの動向に目を光らせていた。

彼は教科書を鞄に入れて部活の用意を整え、さっさと教室を出て行った。

 

いや待て、シナリオが想像と違う。

 

「彼はそもそもお返しをする気が無いのではないだろうか…それが意味するところは…つまり失恋?」

 

焦った私は周りの友人たちに聞きまくった。

 

「N川くんからホワイトデーのお返しがこないんだけど…これって振られたってこと?」

 

友人たちは「照れてるんじゃない?」「本命へのお返しだから、いいもの返さなきゃって悩んでるんだよ。そういうの慣れて無さそうじゃんN川くん」と、あくまで“時間がかかってるだけ説”でなぐさめてくれた。

 

しかし待てど暮らせどお返しはない。

数日後、しびれを切らした私はついに本人を直撃した。

 

私「あのー、私バレンタインチョコあげたと思うんだけど」

N「えっ、あ、うん」

私「そのー、お返しがないっていうのは、その、どういう意味なんでしょうか!?!?」

N「え…」

 

N川くんは明らかに動揺していた。

好きでもない女から一方的にチョコを渡され、そのお返しがないことの意味を問われている。こんなに迷惑な話はない。

 

さらに地獄は続く。

N川くんの手に紙袋がぶら下がっていたのを発見した私は、

「もしかして、それが私へのお返しだったりする!?!?」と追加質問をした。

 

N川くんは絶句しつつ、怯えた顔で紙袋を後ろに隠した。

「いや…これは違う…」

 

「あ、そうなんだ…ごめんなさい」としか言えなかった。

N川くんは「ちょっと選ぶのに時間がかかってて…近いうちに渡すね」といって逃げて行った。

 

翌週、N川くんからお返しをもらった。

きなこに包まれたチョコボール8個。毎日1つずつ大切に食べた後、包み紙を押入れに大切にしまった。我ながら本当に気持ち悪いと思う。

 

その後私は正式にN川くんへ告白をし、当然のごとく玉砕。「大学受験で忙しくなるから」とお茶を濁された。

 

以上が私のバレンタインデーのほろ苦い思い出だ。

 

卒業後のN川くんのことはよく知らない。

人づてに聞いたところによれば、高校卒業後2浪したものの進学はせず、市役所に入ったそうだ。しかし上司の印鑑を勝手に使って何らかの書類を処理しようとし、地元に新聞に載ってしまったようだ。

 

今となってはN川くんのどこに惚れていたのか分からない。

ただ、髪の毛が茶色できれいだった。斜め後ろから見えた、笑った時の目尻のしわが優しかった。図書館の窓から見た、自転車の立ち漕ぎをする背中が小さかった。