ここ最近の屁の勢いが尋常じゃねぇ

興味の赴くままに生きた記録をつづる

「行きつけのカフェ」の記憶

高校生の頃から、「行きつけのカフェ」が数軒あった。

 

地元・鳥取市の商店街は、意外とおしゃれなカフェが多い。鳥取出身の若者が都会の飲食店で経験を積み、鳥取に戻って古民家等で自分の店を開く。いわゆるUターンだ。

商店街をぶらぶら歩いて良さげな店を見つけ、放課後や土日の部活帰りに立ち寄っては入り浸るのが好きだった。

 

なかでも特によく通ったのが、「cafe bird-nest(カフェ・バードネスト)」というお店だ。女性の店主さんが一人で切り盛りしていて、鳥取駅近くのテナントビルで数年営業したのち、近隣の別のテナントに移転。そこで数年営業するも、私が大学生の頃に閉店してしまった。

 

そのお店は、ブックカフェだった。

店主さんの独自のセレクトで置かれた本は、漫画や小説、写真集や図鑑などラインナップが幅広かった。それらの本を読みながらホットサンドやキャラメルチャイフロートを頼むのが定番で、店内で静かにかかるジャズやボサノバの音色が心地よかった。

 

脚本家の三谷幸喜さんとタレントの清水ミチコさんの対談本に出合ったのもそのカフェがきっかけだった。

j-waveで2005年から2014年まで放送されていたラジオ番組『MAKING SENSE』のトーク内容をまとめた本で、あまりの面白さに衝撃を受け、そこから二人のラジオを聞き始めた。二人のことが大好きになったのはもちろん、会話の中に登場する平野レミさんなどの魅力的な人を知ることができたし、本格的にラジオ好きになったのもこの出合いがきっかけだった。

 

高校を卒業し、東京の大学に進学してからも、帰省のたびにそのカフェに足を運んだ。田舎から都会に出たばかりで不安も多かった私にとって、まさに巣(ネスト)のような存在だった。

 

店主の女性と初めて言葉を交わしたのは、お店が閉業する前の最後の営業日だった。

いつものように、ホットサンドとキャラメルチャイフロートを頼み、本を読んでゆっくり過ごした。

 

お会計の際、「ここ、閉店するんですよね」と話しかけてみた。それまで必要最低限の会話しか交わしたことがなかったが、これが最後だから、と勇気を出したのだ。

 

店主さんは、「そうなんです。高校生の頃から、よく来てくださってましたよね。」と答えてくれた。私のことを認識してくれていたのだ。今は鳥取を離れ、東京の大学に通っていることを伝えると、「こちらに帰省するたびに寄ってくれているんだろうな、と思ってました」とも。本当にうれしかった。

 

思わず泣きそうになりながら、「ありがとうございました。さよなら」と告げた。穏やかな表情で、「さよなら」と返してくれた。

 

それから10年ほど経つ。今でも折に触れて「鳥取 カフェバードネスト」で検索しては、お店が何らかの形で再開していないかチェックしている。

東京には星の数ほどのカフェがあるけれど、以来「行きつけ」と言えるほどの店には出合えていない。

 

あの店主さんに会う機会は、きっともうないのだろう。

いまもどこかで料理やお菓子を作り続けてくれているといいなと思う。

青春の大切な思い出だ。